?? ?香川大学 創造工学部
教授 末永 慶寛
水産工学、水圏環境学、海洋工学
2024/03/06掲載
個人ホームページ : https://suenagalab.wixsite.com/suenagalab
研究内容の要点(概要)
地球の平均気温は、2100年には最大4℃上昇すると予測され、その対応策として、我が国では「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、脱炭素社会を目指しています。そこで、新たなCO?吸収源として「ブルーカーボン」に注目が集まっています。海草藻類は、海水に溶け込んだCO2を光合成で吸収し隔離し、食物連鎖や枯死後の海底への堆積などで炭素を貯留します。この一連の生態系を「ブルーカーボン生態系」と呼んでいます。陸域における炭素の吸収量が年間約19 億tに対し、海域では年間約25億tの炭素が吸収されています。海草藻類が繁茂している場所は「藻場」と呼ばれています。瀬戸内海の海底の3千年前の層からも海草由来の炭素が見つかっており,藻場が数千年単位で炭素を閉じ込めていることが判明しています。このように「藻場」の持つ機能は,地球温暖化抑制に大きく資するものです。
しかし、近年は、様々な要因により「藻場」が減少し、同時に魚介類等の生物資源も減少の一途を辿っています。周辺を海に囲まれた香川県でも例外ではありません。そこで、瀬戸内海でも「藻場」を増やすための技術開発が行われており、香川大学では藻場造成構造物を設計して海域に沈設後の藻場造成機能を調査しています。この構造物は、自然エネルギーである潮の流れを上手く制御して、海藻の胞子や魚類の餌となる小型生物の着生を促進する機能を有しており、瀬戸内海のみならず日本海、東北地方の沿岸海域での藻場造成に貢献しています。また、藻場に集まった魚介類についても、AIを用いた判別を行い、生物蝟集機能の定量的評価も実施しています。
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藻場造成構造物の例 構造物に繁茂した海藻
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AIを用いた構造物内のキジハタの判別例
将来的な展望
これまでの調査から、構造物が全て海藻に覆われるくらいの、まさに「海の森」とも言える理想的な藻場造成が確認できました。この効果は構造物設置から13年間も続いており、全国的にも希な藻場造成の成功例となっています。
また、漁業関係者を含めた産学官連携による、藻場造成後のカーボンニュートラルの評価や波のエネルギーを低減できる防災機能を併せ持つ新たな技術開発にも取り組んでいます。香川大学の技術シーズで、かつての豊かな瀬戸内海、日本の海、世界の海を復活させたいと願っています!
?発表論文のURL
https://doi.org/10.2208/jscejoe.78.2_I_31
https://doi.org/10.2208/jscejoe.77.2_I_709
https://doi.org/10.2208/jscejoe.75.I_528
https://doi.org/10.2208/jscejoe.72.I_1075
https://geomate.org/proceedings.html
研究を始めたきっかけ、魅力
幼い頃から常に「海」をそばに感じる日本海沿いの漁村で潮風と波の音を枕に高校までを過ごした後、大学に進学しました。その頃の自分はというと、夢の他には何も持たないハングリーな学生でした。
しかし、その夢の中には漠然としていましたが、海に関わる仕事がしたいという気持ちもありました。大学の講義で専門的な知識を増やしていくうちに、ものづくりへの興味が加速していったことは今でも明確に覚えています。やがて海を豊かにする技術開発に取り組みたいと希望するようになり、まさに一本の線から始まる様々な構造物を設計する日々を過ごして今日に至ります。
今後進めたい研究
実験の様子
ご存じのように、香川県は魚類養殖発祥の地でもあります。魚類養殖業から廃棄される魚類残渣の有効利用に着目して、有害物質を吸着かつ安定不溶化する技術開発も行っています。これも豊かな海を取り戻すこと、さらにはゼロエミッションに貢献する有用な技術となり得ますので、水産業、地域企業、自治体関係者らとの連携をさらに強化しながら研究を遂行していきたいと思います。
メッセージ
香川大学は、多様な学問分野を包括する「地域の知の拠点」として、個性と競争力を持つ「地域に根ざした学生中心の大学」をめざしています。
学生時代は講義の内容が何の役に立つのか理解できない部分も多いかもしれませんが、学生の皆さんに言いたいのは、無駄な講義は一つも無い!ということです。講義の一つ一つを大切にし、香川大学で過ごすキャンパスライフの中で、今まで何気なく見過ごしていたものがそうでなくなる機会を一つでも多くFeelしてください。その中から自分のオリジナリティを発見し、工夫し、そして創造へとつなげていってください。
学生諸君が秘めたるパワーを存分に発揮して社会課題を解決し、地域に貢献する人材になってほしいと願っています。
お勧めの本
<藻場とさかな―魚類生態学入門―>
小路 淳著、ベルソーブックス032、?日本水産学会【監修】、出版社 成山堂書店
<閉鎖生態系?生態工学ハンドブック>
大政 謙次/竹内 俊郎/木部 勢至朗/北宅 善昭/船田 良【監修】/生態工学会出版企画委員会【編】、
出版社 アドスリー
<瀬戸内圏の干潟生物ハンドブック>
香川大学瀬戸内圏研究センター、庵治マリンステーション編、出版社 恒星社厚生閣
<海のトリビア>
シップ?アンド?オーシャン財団、海洋政策研究所、日本海洋学会、出版社 日本教育新聞社
趣味
ボクシング、水泳、ダイビング、映画鑑賞、読書
関連する事業採用実績?受賞歴?特許 等
? 農林水産省、農林水産業?食品産業科学技術研究推進事業採択(H24-H26年度)
? 国立研究開発法人科学技術振興機構「共創の場形成支援プログラム【地域共創分野?育成型】
採択(R5-R6年度)
? 実用化実績:瀬戸内海、日本海、大阪湾等における水産基盤整備事業等で採用
? 第16回海洋立国推進功労者内閣総理大臣賞(2023)受賞
? 文部科学大臣表彰科学技術賞(技術部門:2007、開発部門:2017、理解増進部門:2019)受賞
? PACON International, Service Award (2008), Ocean Service Award (2014) 受賞
? 発明の名称:浮体動揺抑制装置および生簀、末永慶寛、他12名、特許第6156906号、2017.
? 発明の名称:人工魚礁、末永慶寛,他4名、特許第5704558号、2015.
? 発明の名称:機能性多孔質体、末永慶寛、他3名、特許第5754045号、2015.
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