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審査委員の講評

香川大学法学部懸賞論文2018 総評

香川大学法学部長 三野 靖

 今年度の懸賞論文のテーマは、「SNSと私たち」、「グローバル社会の進展のなかで、あなたはなにを目指すのか」で、63作品の応募がありました。最優秀賞と優秀賞については、別途講評がありますので、奨励賞及び総評をさせていただきます。
 SNSに関しては、家庭環境?人間関係から問題点を見出すもの、スマートホンの利用ルールを提案するもの、加害者の心理に焦点をあてるもの、利用者の当事者意識の欠如を指摘するものなど、自分の経験や周囲の事情等から現状を分析したものが多くありました。高校生にとっては、欠かせないSNSですので、51件の応募作品があり、関心の高さを感じました。
 グローバル社会に関しては、外国人が医療を受ける際のサポートについて論述するもので、自分の体験や進路を踏まえたもので、地に足のついた提案が評価されます。
 SNSとグローバル化は、関連したテーマであり、メリット?デメリットも相互に関連しています。高校生にとっても論文を書くという作業のなかで認識や考えを整理できたものと思われます。今後とも、高校生ならではの斬新な切り口を期待します。

最優秀賞 吉政 瑠夏 「私が目指す保育士」

香川県教育委員会 教育次長(兼)政策調整監 松原 文士

 吉政さん、最優秀賞の受賞、おめでとうございます。

 この作品では、自ら目指す保育士の視点から、グローバル化の進展がもたらす問題点を冷静に見つめ、海外で7年間生活していた経験を踏まえて解決策を提示し、その解決策に沿って、将来、外国籍の子供たちや保護者のために、どのような保育士になりたいかを示してくれました。

 グローバル社会では、英語をはじめとした外国語によるコミュニケーション能力を持つこと、そして世界の様々な宗教や文化、生活習慣などに対する理解を深めることが重要であるとして、それをご自分の進路とつなげて身近な視点から論じた点が高く評価されました。

 香川県でも、外国籍の子供たちが年々増加しており、日本語が話せないため、授業がわからなかったり、文化の違いで学校生活がなじめないでいる子供たちがいます。一方で、教員と保護者とのコミュニケーションが難しく、学校行事や家庭への配布資料の内容がうまく伝わらず苦慮しています。

 こうしたことから、学校や保育所等において外国籍の子供たちを巡る様々な問題を解決していくことは、喫緊の課題であると言えます。

 吉政さんは、ご自身の将来像をしっかりと描きながら、力強い言葉とともに、説得力のある表現で解決策を論じ、大変心強く、また頼もしく感じました。

 将来、保育士となった吉政先生の下、外国籍の子供たちにとって、保育所での生活が楽しく充実したものになっていくことを期待しています。

優秀賞 吉田 智樹 「観光業で役立つSNS」

香川経済同友会 特別幹事 竹内 麗子

 現代のビジネスでは観光業のみならず、SNS(FaceBook?Twitter?Insutaguram?Youtube)等の連動による情報収集が極めて重要になっています。中でも香川県は2016年からインバウンド誘致において大きな成功を収めてきました。その成功を持続させ、更なる地域活性化施策のツールとしてSNSは大きな注目を集めています。

 そして今、インバウンド誘致にSNSが重要な時代になってきています。最近ではモノ消費からコト消費へと消費トレンドが変化しており、その地域独自の観光資材が重要視されています。インバウンド誘致に必要なことは、まずは、知ってもらうことです。SNSで「百聞は一見に如かず」を享受して頂くことが大切です。SNSで投稿したくなるような「インスタ映え」をする景観や、モノ、コトを整備していくことは香川県の観光資材を効果的にアピールすることに繋がります。

 この作品は、彼の居住地である「父母が浜」がSNSにより、日本全国はもとより、世界各地へ向けて発信され、今やインバウンド客の来増により、地域が活性化していく影響を、SNSのツール力を通じ、「誰に情報を伝えたいか」、「タイムリーな情報発信方法」、「SNSの使い分けによる地域の観光資材の効率的なアピール等の重要性」を提言しています。

 それは、価値観が異なる人々とのグローバル社会における接触共生、いわゆるダイバーシティ推進への一つの答えを導き出していくことに繋がります。

 彼がSNSをツールとしてインバウンドのみならず、不確実なものに立ち向かう姿勢と勇気に改めて大きなエールと期待を贈ります。この度は本当におめでとうございます。

優秀賞 西山 花 「のめり込む恐怖」

香川県弁護士会 弁護士 植野 剛

 優秀賞を受賞された大手前丸亀高校の西山花さん、おめでとうございます。

 この作品の素晴らしいところは、自分の実体験を基に、SNS依存の恐ろしさ、また、SNS依存からの離脱について考察している点です。

 今回の審査を行うにあたり、私は「高校生らしい、独創的でユニークな視点あるいは提言があるか」という点をより重視しました。それは、今回の論文のテーマが「SNSと私たち」という高校生にとってとても身近なテーマだったことから、高校生らしい自由な発想で論文を書いて頂きたいと考えたからです。

 西山さんの作品は、携帯電話を購入してもらった時の嬉しかった気持ち、両親との約束を破って、LINE等のSNSをインストールしてしまった時の気持ち、SNSにのめり込んでいった時の気持ち、両親にSNSをしていることが発覚して怒られた時の気持ち、自分を変えようと決意した時の気持ちがよく伝わってきました。そして、自分がSNS依存に陥った体験から、SNSに依存しないための自分なりに考えた対策を講じています。

 テーマに沿った調査を行ったり、文献を読んだりすることも、もちろん大事です。しかし、高校生が研究者や専門家の執筆した文献等に触れてしまうと、どうしてもその意見に引っ張られてしまい、「借り物」の作品になりがちです。この点、西山さんの作品は、実際に体験した西山さんにしか書けません。このように、自分で考える力、発想力をこれからも培ってもらえたらと思っています。

優秀賞 結城 伶菜 「真のグローバル化へ」

四国新聞社 西讃支社長 木原 光治

◎共感呼び起こす素晴らしい説得力

 相変わらず論文が苦手だ。書くのも、読むのも。そんな身で審査をした。これには入賞者はもちろん、応募してくれた生徒みなさんに「すまない」と、謝らなければならないだろう。新聞記者を40年やってくると、「起承転結」の文章を読むのが苦しい。なぜか。新聞の記事は「結起承転」、常に見出しになる結論をすべて、第1、2段落に納めないと、デスクにこっぴどく叱られる。つまり、記事は全部読まなくても、その出だしでニュースのコアがわかるのが基本。

 そんな眼で読んだ結城さんの「真のグローバル化」には、共感を呼び起こす素晴らしい説得力があった。グローバル化の起源を説いた序文、最貧国バングラデシュと、先進国がすべきことをわかりやすく対比した問題提起、「他国、自国関係なく、人間の間にあるボーダーを超えるトランスボーダー(越境)こそが真のグローバル化」との「結」。

 そこには国境、人種、言語の垣根?壁を超えることの大切さに加えて、「相手のことを知り、相手の立場に立って考える」という弱き者を思いやる心根がある。

 一国主義、排他主義がはびこり始めたこの世相でも、香川にこんな高潔な高校生がいるということに、大きな勇気をもらった。読ますナイス論文である。

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