香川大学 経済学部
教授 藤村 和宏
サービス?マーケティング
2024/10/09掲載
個人ホームページ : https://mkresearch.ec.kagawa-u.ac.jp/infos/top.php
研究内容の概要
現在、マーケティングの視点から教育サービスと医療サービスを理論的?実証的に研究しています。両サービスはまったく異なるように見えるかもしれませんが、「便益遅延性」(私が創出した概念です)という特徴を共有しています。
サービスは生産と消費が同時に行われるとされていますが、顧客が望む便益も同時に享受できるとは限らないというのが「便益遅延性」概念です。
なお、便益とは、顧客がモノやサービスを購入?消費することで得たいと考えているポジティブな変化です。
医療サービスの場合、疾病で低下した身体的健康度の回復とそれに伴って喚起された不安の低減です。
教育サービスの場合、将来の社会?職務活動に必要とされる知識?スキルの習得であり、それによってしたいと考える活動の範囲が拡大することです。
便益遅延性が生じるサービスには、他に「望む変化を必ずしも得ることができない(便益享受における不確実性)」と「顧客の参加には不快感を伴いやすい」という2つの特徴もあります。
サービスはサービス提供組織(者)と顧客との協働によって生成されることから、サービス提供組織(者)が顧客の望む便益を生成するのに必要な生産資源を充分に保有しているとしても、顧客が必要な参加と協働を行わなければ、顧客は望む便益を享受することはできません。
しかし、顧客は適切に参加と協働を行ったとしても、便益遅延性のためにその成果を知覚するのが困難であるだけでなく、必ずしも望む便益を享受できるとは限らない。さらに、その参加には不快感を伴いやすいことから、顧客の参加と協働は抑制される傾向があります。
顧客の参加が抑制されると、顧客が望む変化を享受できる可能性はさらに低下することから、顧客の適切な参加と協働を促す施策をマーケティングの観点から研究しています。
また、従来のマーケティングではその成果指標として「顧客満足」が採用されていますが、教育サービスの場合には「学習者満足」は成果指標として歪みが大きく、この指標に基づいて教育プログラムやデリバリー?プロセスの変更を行うことで学習者が遅延的に不便益を被るおそれがあることから、適切な成果指標の開発を行っています。
研究を始めたきっかけと魅力
この研究を始めたきっかけは、教育サービスに従事する過程で「今、頑張って勉強をしておけば、将来やりたいことができるのに、なぜ学生は勉強をしないのか」という疑問を年々強く抱くようになったからです。大学での学びも、学生と教員の協働によって行われ、学生が10年後あるいは20年後にやりたいことをできる知識?スキル、さらには学び続ける能力を習得できるかどうかはこの協働に大きく依存しています。
また、この協働は学生主導で行われる必要があり、教員はそのサポートにすぎないことから、学生が主導して協働が行われるためには何が必要であるのかを考える過程で「便益遅延性」概念が生まれ、この視点から研究を行うようになりました。
今後進めたい研究
大学の教育サービスを対象に学生の適切な参加と協働を促す仕組み作りと「顧客(学生)満足」に代わる適切な成果指標の作成にかかわる研究を理論的?実証的に進めていきたいと考えています。大学の教育サービスを研究対象とすることは障害が多く、これまでは専門学校を中心に研究を進めてきました。また、教育サービスのカテゴリーには入らないが、地域社会に必要な人材育成の役割を果たしていると考えられる祭りや美術館の対象に研究を行っていました。
しかし、我々の研究を評価してくれ、実証的調査に協力をしてくれる大学が現れましたので、今後は大学サービスを中心に研究を行っていきたいと考えています。
メッセージ
学校での学びの成果は遅延的ですが必ず現れます。100%望み通りではないとしても、やりたいことに必要な知識?スキルは習得できます。また、真摯に学びに取り組めば、本当にしたいことが見つかり、それが目標となり、学びが促されると思います。
仕事をされている方は、職務遂行は社会への貢献と同時に、自らの成長を促す教育サービスの消費と考えるとよいと思います。職務施行での様々な経験と振り返りは非常に貴重な学びの機会であり、その機会をどのように活かすのかで未来は変わると思います。
学生さんも一般の方も遅延的にしか望むポジティブな変化は生じませんが、「便益遅延性」を考慮して学びや職務遂行を行ってもらいたいと思います。
関連する事業採択実績、受賞歴、特許等
<現在の主研究に関連する事業採択実績>
共同(研究代表)、 JST社会技術研究開発センターの戦略的創造推進事業「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」、「医療サービスの『便益遅延性』を考慮した患者満足に関する研究」(平成23年10月?平成26年9月)
共同(研究代表)、科学研究費補助金:基盤研究(B)(一般)、「便益遅延型サービスの消費における便益享受と顧客満足?顧客参加に関する実証的研究」(課題番号:16H03672)、(平成28年度?平成31年度)
共同(研究代表)、科学研究費補助金:基盤研究(B)(一般)、「便益遅延型サービスの消費における便益享受?顧客満足?顧客参加?目標変容の研究」(課題番号:20H01552)(立博体育_立博app-官网2年度?立博体育_立博app-官网5年度)
共同(研究代表)、科学研究費補助金:基盤研究(B)(一般)、「教育サービスの便益遅延性にかかわる特性と影響要因のデザイン可能性に関する研究」(課題番号:24K00301)(立博体育_立博app-官网6年度?立博体育_立博app-官网9年度)
<受賞歴>
「平成16年度(第二回)助成研究論文 吉田秀雄賞? 第1席」 受賞
日本商業学会「2021年学会賞 優秀賞」受賞
趣味
?写真 : 何も考えないで、野鳥や昆虫を探しながら歩いています。フィンランドで2度ほど大規模なオーロラを撮影できたことは思い出に残っています。また。出水からシベリアへ飛び立つ鶴の群れも感動的でした。
?陶芸 : 茶道を習い始めたので、お道具をつくるために陶芸を始めました。なかなか気に入るものができないので、ハマっています。
?酒蔵めぐり : 日本酒の市場創造?拡大のためのマーケティングも研究しているので、趣味を兼ねて酒蔵をめぐり、色々とお話を伺っています。
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おすすめの本
?『マーケティングの革新: 未来戦略の新視点』/ T.レビット著、土岐坤訳/ダイヤモンド社 1983年。
?『マーケティングの神話』/石井淳蔵著/日経BPマーケティング、1993年。
?『複雑化の教育論 (越境する教育)』/内田樹著/東洋館出版社、2022年。
?『最終講義 生き延びるための七講 (文春文庫)』/内田樹著/文藝春秋、2015年。