島根大学医学部看護学科地域?老年看護学講座 榊原文講師は、香川大学医学部看護学科地域看護学 芳我ちより教授らと共同で、妊婦のインターネット長時間使用(仕事以外で1日5時間以上使用)と低出生体重児(2,500g未満で出生した児)の出生との関連を明らかにしました。研究成果は、Environmental Health and Preventive Medicineに、2024年12月12日(日本時間)にオンライン掲載されました。
◆本件のポイント!
低出生体重児は、将来の循環器疾患等、生活習慣病になるリスクが高いと言われています。
本研究は、妊娠中の長時間のインターネット使用が、低出生体重児の出生と関連がある可能性を示唆しました。
◆本件の概要
低出生体重児は、発達の遅れや将来の生活習慣病のリスクにつながる公衆衛生上の重大な課題であり、日本では1975年以降、40年以上にわたり増え続けています。また、インターネットの急速な普及により、生活や健康に悪影響を及ぼす“問題のあるインターネット使用”が社会問題となっています。この重大な2つの健康課題に関連がある可能性を世界で初めて明らかにしました。
◆研究内容
研究の背景
低出生体重児は、早期死亡や発達の遅れにとどまらず、成人期になってから肥満や高血圧、糖尿病、心疾患等の生活習慣病や、精神疾患を発症するリスクが高いと言われています。
日本では、生活習慣病が国民医療費の約3割、死亡者数の約5割、さらには介護が必要となった原因の約3割を占めていることから、低出生体重児の予防は、将来の生活習慣病予防や介護予防にもつながる重大なテーマと言えます。このことを踏まえ、国民健康づくり対策である健康日本21(第二次)では「全出生数中の低出生体重児の割合の減少」を一つの目標に掲げてきましたが、立博体育_立博app-官网4年の最終評価で「悪化している」結果が示されました。
これまでに明らかにされてきた低出生体重児の要因として、多胎、初産、妊娠中の喫煙、妊娠中の体重増加不良、高齢出産および不妊治療、経済状況等が挙げられています。しかし、これらの要因への対策を講じても低出生体重児の減少が認められないことを考えると、未だ明らかにされていない予防可能な要因を特定することが重要であると考えました。
そこで今回着目したのが妊娠中のインターネット長時間使用です。近年、インターネットアクセスは急速に拡大し、教育、ビジネス、娯楽等、あらゆる側面において生活が豊かになりました。その一方で、長時間インターネットを使用する等、過度な没頭によって、人間関係や日常生活に悪影響を及ぼす“問題のあるインターネット使用”が社会問題になっています。
妊婦がインターネットを使用して胎児の発育、妊娠中の合併症、妊娠中のライフスタイルや出産等について情報を収集したり、他の妊婦と体験や思いを共有したりするメリットは大きいです。しかし、妊婦のインターネット使用が長時間になると、母胎管理が不十分になる可能性があり、そのことが低出生体重児の出生につながるのではないかと仮説を立てました。
研究の内容と成果
2016年4月~2017年9月の間に、島根県松江市で妊娠届出をした妊婦のインターネット使用に関する調査と、出生届出時の出生情報を使用して解析を行いました。データ解析にあたっては、低出生体重児の極めて高いリスク要因である多胎と喫煙していた妊婦のデータは除外しました。
その結果、妊娠中に仕事以外でインターネットを1日5時間以上すると回答した妊婦の割合は4.4%、低出生体重児の割合は7.2%でした。妊娠中に仕事以外でインターネットを5時間以上使用している場合、そうでない妊婦と比較して、2.16倍 低出生体重児を出生する可能性が示唆されました(図)。
妊娠中の長時間のインターネット使用と低出生体重児との関連が直接的なものか、間接的なものかは明らかではなく、このメカニズムの解明は今後の課題です。また、低出生体重児の要因となる妊娠中の栄養状態や体重の変化、先天異常の有無に関するデータを使用できていないことが本研究の限界です。今回の結果をもって、妊娠中の長時間のインターネット使用が、必ずしも低出生体重児の出生につながるとは言えず、あくまでもリスクの1つとして捉える必要があります。
しかし、これまでの研究によれば、インターネットに夢中になると、健康管理が疎かになることや、食事量の減少?欠食により痩せるリスクがあること、栄養バランスの偏りをきたすことが明らかにされており、このことが低出生体重児の出生につながる可能性として推察されます。
インターネットは適切に使えばメリットは大きいですが、母胎管理に影響を及ぼすような長時間のインターネット使用には注意が必要です。また、妊婦の健康管理に関わる医師、助産師、保健師、看護師等は、妊婦がインターネットを長時間使用している場合、低出生体重児の出生につながるような要因がないかを確認し、必要なサポートを行うことが重要であると考えます。
図. 妊娠中のインターネット長時間使用と低出生体重児出生との関連:多変量ロジスティック回帰分析
◆本件の連絡先
<研究に関すること>
島根大学医学部看護学科 地域?老年看護学講座
講師 榊原 文
Tel:0853-20-2337
Mail:aya@med.shimane-u.ac.jp
<広報に関すること>
島根大学 医学部総務課企画調査係
Tel:0853-20-2019?2531?? FAX:0853-20-2025
Mail:mga-koho@office.shimane-u.ac.jp
香川大学 医学部総務課広報法規?国際係
Tel:087-891-2008 ??FAX:087-891-2016
Mail:kouhou-m@kagawa-u.ac.jp
◆その他
<論文情報>
■論文タイトル: Association between long Internet use during pregnancy and low birth weight: a retrospective cohort study
■掲載誌:Environmental Health and Preventive Medicine
■論文URL: https://doi.org/10.1265/ehpm.24-00279
■著者(所属?職名)
榊原文 (島根大学医学部看護学科 地域老年看護学講座 講師)
芳我ちより(香川大学医学部看護学科地域看護学 教授)
金城文 (鳥取大学医学部社会医学講座環境予防医学分野 准教授)
尾﨑米厚 (鳥取大学医学部社会医学講座環境予防医学分野 教授)
本研究に関連して、これまでに著者らは、母親の問題のあるインターネット使用と子どもの痩せや虐待認識との関連を明らかにしています。以下が論文の詳細です。
Aya Sakakihara, Chiyori Haga, Yoneatsu Osaki.Association Between Mothers' Problematic Internet Use and the Thinness of Their Children.Cyberpsychology, Behavior and Social Networking, 22(9), 578-587,2019.
https://doi.org/10.1089/cyber.2018.0685
Aya Sakakihara, Chiyori Haga, Aya Kinjo, Yoneatsu Osaki.Association between mothers’ problematic Internet use and maternal recognition of child abuse.Child Abuse & Neglect, 96, 104086,2019.?
https://doi.org/10.1016/j.chiabu.2019.104086