NEXT?INNOVATION
― 香川大学発研究シーズ活用レポート vol.17?―
ロボット手術の可能性
膵臓の手術は、難度が高いことで知られています。腹腔鏡手術も患者さんへの負担が少ない手術法のひとつですが、糸を結んだり、縫合したりするのにはストレスを感じていました。そのような中、細かく複雑な作業も容易にする手術支援ロボットの登場は画期的でした。医師は、サージョンコンソールと呼ばれる操縦台に座り、ロボットのアームについている様々な器具やカメラを遠隔操作して手術を行います。わかりやすく言うと、まるで自分が患者さんの体内に入り、自分の指先で直接手術をしているような感覚になります。ロボットのすごいところは、作業に合わせて動作のスケールを変えて非常に繊細な操作ができるところです。画像も鮮明な3Dで14倍まで拡大でき、従来の手術では認識できなかった細い神経や血管などが見えるようになり、精密な手術手技ができるようになりました。ロボット手術が行えるのは厳格な基準をクリアした病院、資格を持った医師のみ。今のところ、香川県下で膵臓や肝臓のロボット手術を単独で行えるのは、香川大だけです。
ロボット手術は座った状態で操作するので、医師の負担も軽減されます。
患者さんにとって最大のメリットは、体への負担が少ないこと。傷口も小さく、出血量も減り、結果的に合併症のリスクも低下します。したがって術後の回復も早く、術後に患者さんの側にいる看護師からも「ロボット手術をした人は、翌日の元気さが違いますね」と驚かれるほどです。印象的だったのは、90歳の膵がんの患者さん。昔であれば、90歳の膵がんと言われると、どう対処すべきか悩むところでしたが、ご本人の希望でロボット手術をすることに。手術翌日にはスタスタと歩き、一週間後には退院という回復の速さで「早く元気になれるし、ロボット手術を受けてよかった」と喜ばれていました。患者さんの負担が少ない、元気になるのが早いというのはつまり、これまで「体力の問題で大きな手術を乗り越えられるか不安」「負担が大きいから手術は諦める」と言っていた方たちも、手術ができる可能性があるということ。今後、ロボット手術によって救える命がさらに増えることを期待しています。
もともと手術支援ロボットは、湾岸戦争の時に、戦地にいる負傷兵士をアメリカから遠隔操作で助けられないかというところから開発が始まりました。現在、Aという場所にいるベテラン医師が、遠く離れたBという場所のロボット手術を行う遠隔手術の準備が始まっています。身近な例を挙げると、医師不足が問題になっている小豆島の病院にロボットを置けば、香川大から手術を行うことが可能になります。より多くの方を助けることに繋がるのではと期待しています。
市民公開講座で啓発活動
膵がんをはじめとする難治がんを治すために欠かせないのは〈集学的治療〉。そこで消化器外科だけではなく、消化器内科、腫瘍内科、放射線診断科などの専門家の知見と技術を集結させた「膵臓?胆道センター」を立博体育_立博app-官网5年に開設しました。膵がんで苦しむ方を減らすために最も有効な方法についてメンバーで話し合った結果、市民の方に膵がんを知っていただき、早期発見に繋げることが重要だという結論に至りました。そうして「うどん県膵がん早期発見プロジェクト」を立ち上げました。膵がんに関する最新の知識や早期発見に役立つチェックリストを専門医らがわかりやすく解説することを目的として、高松市で11月24日に開催した市民公開講座には200名以上の方が来場。みなさん熱心にメモを取られたり、たくさん質問してくださったりして、我々も大きな手応えを感じました。医療従事者の使命は、やはり患者さんの病気を治すこと。治療に役立つことは、病院の中だけではなく、積極的に病院の外にも出て伝えていくべきだと考えています。今後も地域の方への啓発活動を継続するとともに、すべての患者さんに最善の医療を届けて笑顔を取り戻したいと思っています。
市民公開講座開催のお知らせはこちらから
https://www.med.kagawa-u.ac.jp/hosp/news/event/entry-3672.html
医学部 消化器外科学 教授
岡野 圭一(おかのけいいち)
愛媛県松山市出身。香川医科大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。香川大学医学部消化器外科学助教?講師?准教授を経て、2021年9月から現職。専門は消化器外科学で、消化器疾患を中心として特に肝胆膵癌など難治癌の外科治療と病態研究、外科医育成に取り組む。
詳しい情報は、HPから確認できます
香川大学 産学連携?知的財産センター
/faculty/centers/23894/