香川大学 創造工学部創造工学科先端マテリアル科学コース
講師 磯田恭佑 
有機機能性材料、有機合成化学、刺激応答型光機能性材料

2018/10/10 掲載

研究結果の概要

本研究では、π共役分子であるN-Heteroacene分子を基幹骨格とした室温の光機能性液体材料の合成に成功しました。一般的に、N-Heteroaceneは非常に高い融点を持つ固体材料として得られます。しかし、当グループでは緻密に分子構造を設計することで、非常に珍しい液体材料として得ることに成功しました。また、この材料は外部刺激によりその発光色を様々な色へと変化させることが可能である「刺激応答型光機能性液体」として機能することが明らかとなりました。本材料は室温で液体であるため、基盤への塗布や紙などへの印刷の際に有機溶媒を使用しなくてもよいため、新たな環境低負荷型材料と考えています。

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環境低負荷型塗料として使用可能な刺激応答型光機能性液体

研究の背景

近年、有機機能性材料の発展はめざましく、その中心にいるのがπ共役分子です。π共役分子の最小単位はベンゼン環(亀の甲羅に似ている)からできています。その組み合わせにより、様々な構造からなるπ共役分子を作り出すことができ、それらの分子は各々の個性を持ちます。例えば、鉛筆の黒鉛のように文字を書くためのもの、プリンタなどのインクの原料である染料などに使用されていました。近年では、π共役分子はその光る性質に注目が集まり、有機LED素子の原料に使用され、さらには有機ELディスプレイなどへ組み込まれています。しかし、π共役分子は一般的には固体であるため、製品加工をするときに欠陥などが生じやすいです。そこで、これらの問題を解決するために、本研究では液体状態のπ共役分子の開発を行いました。液体材料は、固体とは異なり高い流動性を示すので、欠陥等を容易に修復することが可能です。また、液体であるため形状を自在に変えることができることは大きな利点であると考えています。

研究の成果

今回開発したN-Heteroacene分子を基幹骨格とした液体材料は、酸性雨の原因となっている塩化水素などの酸性物質との接触によりその発光色を大きく変化させることが可能です。その発光色は接触させる酸性物質の種類によりコントロールすることができ、青色から緑色、黄色、橙色などへと大きく変化します。つまり、今回開発したN-Heteroacene型の光機能性液体は酸などの刺激に応答して、その電子状態を変化させることが可能な「刺激応答型室温発光性材料」として、機能することが明らかとなりました。これまで、発光性室温液体はいくつかのグループにより報告されておりますが、液体自体が刺激応答により発光色を変化することはあまり例がありません。また、従来有機溶媒に溶解?分散して使用しなければならない染料?顔料とは異なり、本材料が室温で液体であるため、有機溶媒を用いない環境低負荷型の塗料として使用可能です。さらに、紙等への印刷用インクとして使用すれば、印刷後に酸性蒸気に曝露することで発光色の変化が確認できます。この性質を利用すれば、紙幣の偽造防止等にも役立つのではないかと考えています。

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 Chemistry An Asian Journal (WILEY-VCH, ACES)のCover Featureとなった本研究の概略。お手製のガラスペンと開発した液体材料を用いて再テスト中。

研究の魅力

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 仮説通りに実験結果が得られ、現象等を証明?解明できたときに、「ドヤ感」を感じられるところです。現在は研究室主宰ですので、学生が研究を通して成長していたり、研究結果に関する持論を展開しているところを見ているとニヤニヤとしてしまう。

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研究を始めたきっかけ

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文系科目が全くできなかったため、理系大学に入学しました。その後、4年時に研究室に入り、卒業論文研究を完成させなくてはならなかったためです。

この研究の将来的な展望

より多くの方に認知いただけるように、学術論文にて報告していくとともに、世の中のどこかでひっそりと使用してもらえるところまで、研究を引き上げたい。

今、お読みの本を教えてください

村上龍「愛と幻想のファシズム」
浦沢直樹「夢印」

趣味

オーケストラでホルンを吹いていましたが、下手なのでクビになりました。その他、伊集院光の深夜ラジオ「深夜の馬鹿力」を寝る前に聞くことです。