香川大学 創造工学部創造工学科情報セキュリティコース
教授 八重樫理人 
ソフトウェア/情報システムのデザインとその応用

2020/8/6 掲載

研究結果の概要

香川大学創造工学部創造工学科 情報システムセキュリティコース八重樫研究室は、観光の思い出を記録する観光ガイドブック生成?印刷システム「KadaPam/カダパン」を開発しました。カダパンは、ガイドブックの写真を、観光者が撮影した写真と画像認識技術を用いて置き換えることで、観光の思い出を記録した二種類のガイドブック(紙媒体と電子媒体)を生成します。図1はカダパンの概要、図2はカダパンの画面、図3はオリジナルのガイドブック、図4はカダパンが生成した観光者の旅の思い出が記録されたガイドブックです。

図1.jpg                    図1 システムの概要

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                    図2 カダパンの画面

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研究の背景

「観光立国推進基本法」では、観光旅行者の利便の増進として情報通信技術を活用した観光情報の提供等に必要な施策を講ずる必要性が言及されています。観光における観光情報は、準備段階で必要な「事前情報」、目的地で必要な「現地情報」、観光が終わった後に取り扱う「事後情報」の3つの情報に分類されます。「事前情報」は、観光旅行への要求の派生と動機づけになるような、観光イメージを高める情報と、観光旅行計画を立案するために必要な、観光候補地や宿泊施設等に関する詳細な情報です。観光イメージを高める情報発信には、テレビCMや雑誌のほか、地方自治体や観光協会が開設する観光ポータルサイトや観光口コミサイトなどWebサイトが用いられます。「現地情報」は、観光案内所などで提供されるパンフレットや地図などがそれにあたります。近年では、デジタルサイネージや地域内限定で利用できるスマートフォン用アプリケーションによって、現地情報を提供する自治体も増加しています。「事後情報」は、旅行記やアルバム写真など、観光行動を振り返り、整理するために取り扱う情報です。加えて、訪れた土地や利用した施設に対する感想や評価に関する情報も含まれます。また、訪れた土地や観光施設に興味を持ち、観光旅行後により詳細に調査するために収集した情報を指すこともあります。魅力ある「事前情報」によって観光へと誘われた観光者は、観光地で「現地情報」にふれ、「現地情報」を得て観光を終えた観光者は、帰宅後に旅の思い出を「事後情報」として記録します。「事後情報」は、別の観光者を観光へと誘う「事前情報」となります。このように、「事前情報」、「現地情報」、「事後情報」は密接な関係にあり、我々の研究室ではこの関係を観光情報ライフサイクル(図5)と定義しています。

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研究の成果

カダパンは、従来の観光ガイドブックでは実現できなかった、観光者を観光ガイドブックに掲載された観光地に実際に誘うため、ゲーミフィケーションを適用し開発されました。ゲーミフィケーションとは、ゲームデザインやゲームの原則をゲーム以外に応用する活動を指します。タスクの進行状況を示すプログレスバーは、ユーザに目標要素を提示し、目標要素に対する進行状況を可視化することで、タスク進行を促す仕組みであり、ゲーミフィケーションの応用例の1つです。観光におけるスタンプラリーやフォトラリーは、スタンプを観光地に設置し(目標要素の提示)、スタンプが設置された観光地を廻ってスタンプを集めます(進行状況の可視化)。スタンプラリーやフォトラリーは、ゲーミフィケーションを応用した観光振興の取組みであり、訪問観光地数や観光地の滞在時間の増加に一定の効果があることが報告されています。カダパンは、観光ガイドブックを用いて観光者に目標要素を提示し、観光ガイドブックに掲載されたオリジナルの写真を、同一の場所、同一の構図で観光者自身が撮影した写真に置き換える(進行状況を可視化)ことでタスクの実行(観光地への訪問)を促す仕組みを、画像照合技術を用いて実現しています。すなわちカダパンは、従来の観光ガイドブックでは実現できなかった、観光者を観光ガイドブックに掲載された観光地に実際に誘うこと、観光ガイドブックを見て実際に観光地に観光者が訪れたかどうかを確認することを目指して開発されました。2017/11/3~12/3 にかけて、カダパンを用いた観光 ICT 社会実験を小豆島で実施しました。社会実験では、小豆島を訪れた観光客にカダパンを無料で提供し、思い出が記録された観光ガイドブックを使って観光の振り返りを支援します(観光情報における「事後情報」)。生成された観光ガイドブックよる観光の振り返りは、観光のリピートにつながる効果が期待できます。また、思い出が記録された観光ガイドブックが、SNS などによって他の観光客と共有されることで、観光における新たな観光客獲得も期待できます(観光における「事前情報」)。さらに、生成された観光ガイドブックには、観光ガイドブックを利用した観光者の観光行動が記録されており、その分析も可能です。

研究の魅力

ユーザが「面白い!」「楽しい!」と思ってもらえるようなシステムを想像しながら開発をしています。実際に実証実験に参加したユーザから、「面白かったです」などシステムを評価するコメントをもらったときが最高にうれしい瞬間です。

研究を始めたきっかけ

自分の専門分野の技術で地域に貢献したいと思ったのが研究のはじまりです。

この研究の将来的な展望

カダパンは、実際に製品化されることが決まりました。システムを開発して有効性を確認するだけでなく、製品化も目指して研究を推進していきたいです。

今、お読みの本を教えてください

スマホを捨てたい子どもたち: 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方 山極 寿一

趣味

フットサル、ゴルフ

発表論文のURL
https://www.ipsj.or.jp/dp/contents/publication/40/S1004-1816.html

小豆島実証実験の様子.jpg

                    小豆島実証実験の様子